サステナブル経営とサステナブル金融の接続

金融経済学会での発表要旨

日本金融学会2023年度全国大会春季大会において、共通論題「サステナブルファイナンス」で講演と討論に参加しました。(2023年5月14日)

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サステナブル経営とサステナブル金融とを接続するために、投資家を始めとする資金提供者と企業経営者のエンゲージメント(対話)が重要となる。 

これまで金融業界からは、金融からみた事業や社会の持続可能性を伝えようとしてきた。金融の立場からの「持続可能性」とは、投資家側がその「想い」を込めて企業に資金を預け、投資先が社会の改善に寄与すると期待することである。一方、企業経営の観点からは、個々の個別の企業が描く未来の世界とありたい姿に向かって事業ポートフォリオを作っていく。社会が電気自動車を選び内燃機関を必要としなくなるのであれば、企業はそれに対応して、自社の得意分野や資産を活用するのみならず、資本投下とDXなど技術革新を通じて、事業領域をモノ作りからサービスへの課金に事業を転換するような、ビジネスモデルの大きな転換による発展を図ろうとする。 

サステナブルな社会の構築のためには、それを成長機会ととらえる投資家が思いを込めて資金を預ける先を探すことと、経営者が、社会や投資家の思いにもアンテナを張りながら、自らが動かすことのできる人材と組織の持つノウハウ、得意分野での設備などを活かして、拡張やR&Dに基づく新規成長分野への進出を図ることとの両方がうまく噛み合うことが必要である。機関投資家を通じた投資家・株主と企業経営者との対話が、事業ポートフォリオの見直しなどを含む大胆な経営改革につながることで、日本企業がサステナブル社会実現に貢献し、しかもそのこと自体で強い競争力を持つことができることにつながる。 

株式会社制度において、株主(エンゲージメントの主体としては機関投資家)は、社会や環境の影響を受け、投資先にその意思、考えを伝えることが期待される。その資金提供の意思決定は、株主の場合、最終利益のどの程度を留保する一方で、次の期の成長機会に投じるか、あるいは配当などで受け取るかを決めることである。一方、株式会社は商品を顧客に提供し売上を計上、売上が上がると、従業員に人件費、取引先には仕入費を支払う(営業費用)。営業利益から銀行等に元利金を支払い経常利益が生み出され、政府に税金を払うのちに、株主に配当を支払うとともに、内部留保を成長資金として新規投資と従業員を増やし、売上を成長させる。この中で、投資家は、他の機会と比較選択しながら、投資先企業が効率よく資本を利用して成長を実現することを期待する。株式会社中心の資本主義経済において、成長資金は株式(内部留保)で、運転資金は融資でと考えると、株式会社の資金サイクルと対話の密接な関係が理解できるだろう。

もちろん、サステナブル社会の実現のために、企業活動ではなく、社会が選挙などを通じて議会・政府に影響を与え、規制改正等を通じた変革を促すこともある。しかし、現実にはカーボンゼロなど環境改善への社会の要請の例を見ても、選挙、議会、政府の行動を通じてでは遅すぎることが多い。資金提供者と企業経営者の対話と行動が適切に行われることは、素早さと共に、公的部門のみでは不十分な資金に加えて民間部門からの資金を導入し、トランジションファイナンス(移行金融)などを通じて持続可能な社会へのイノベーションと公平な移行を促すことになる。サステナブルな社会に向かうための株主(機関投資家)を始めとする幅広い資金提供者と企業経営者の対話の重要性は、今後益々重要になっていくであろう。